JCBLライブラリーに昭和初期に発行された2冊の貴重なブリッジ教本があります。
その1冊は、昭和4年(1929年)4月に発行された「カード競技 オークション・ブリッヂの遊び方 初歩編…研究編」 (著者:小渋雪 発行:朝日書房 定価:80銭、送料:8銭)。
その序文を一部ご紹介しましょう。ブリッジの特徴が見事に書かれているだけでなく、当時の欧米におけるブリッジ、そしてもっと日本でもブリッジが広まってほしいという著者の熱い思いが、一般庶民にも西洋文化が浸透し始め、モガ、モボが闊歩していた太平洋戦争前夜、華やかなりし昭和初期の世相とともにうかがえます。
「カード競技法は幾十百を数ヘますが、其上下を通じて一般的なものはローヤルオークションブリッヂの右に出づるものはないでせう。欧米諸国ではカードと言へばブリッヂを意味する位それ程盛んであります。これはダンスやゴルフの様に場所が要らないし、麻雀の様に高価で且つ取扱ひに手数のかかるものでもなく、唯一組のカード、一枚の紙、一本の鉛筆さへあればよろしいので欧米人は家庭に於いては勿論至る処汽車の中、船の中、飛行機の中でさへ行って居ります。全く時を選ばないし場所も選ばないものであって實に永遠不朽の流行とも申すべく親しめば親しむ程益々興味の湧き出る遊びであります。今や我が国はハイカラといふ言葉が廃ってモダンとなりダンスの時代となったのに欧米の社交界になくてはならない此競技だけが未だ普及されて居らないといふ事は甚だ遺憾であります。」 (後文省略)
巻末にはまさに時代を髣髴させるキャッチコピーと推薦の言葉が…
■男女が理解し合ふに最もよいゲーム
→ 確かに。ブリッジはプレイする人の総合的人間性が最も表れるゲームといわれてい
ます。
■今や欧米ではダンスと共に本ブリッヂを知らねば社交界へ這入れない事となってい
る。日本も今やダンスは全盛となって来た。そして時代の要求は本書の現はれとなり、
新しい婦人青年の室内遊戯として初心者及研究者のために本書カード競技ブリッヂを
お勧めする。
そしてもう一冊は、昭和10年(1935年)8月、廣文堂書店から発行された「誰にも解るトランプ最新競技オークションブリッヂ實戦術 附 国際競技規則」 (著者:米国ボストン工業大学理学士 亀澤精一郎 定価:1円20銭)です。
序文には、1927年の米国にはブリッジ教師が1000名おり、その数は1933年には5000名を突破していること、また、1934年の第9回ロンドン軍縮会議に日本を代表して出席した山本五十六元帥&事務官ペアと米国代表スタンドレー軍令部長・随員ペアとの間にブリッジの試合が行なわれた、など当時の世界のブリッジを知る上で貴重な記述がたくさんあります。そして丁寧に遊び方を説明している本文には写真が随所にみられるほか、巻末には、オークションブリッジだけではなく1932年改正コントラクトブリッジ競技国際規則全文も載っており、ブリッジの歴史をひもとく意味でも興味深い文献です。