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みなさんの行ってる学校、(ってか「行ってた学校」?)には、お父さんやお母さんに、いつもお勉強してることをまとめて発表したりする会があるかな?ボクの通っている「ヨコハマ・ベアーズ・スクール」には、毎年「学習発表会」っていうのがあるんだ。おうちの人や学校のほかの学年の子たちに、劇を見せたり、歌をきかせたり、授業で調べたことをまとめて発表したりするの。クラスごとに体育館のステージでやるから、チョーきんちょうするんだよ。
こないだ、その学習発表会があったんだ。ボクたちのクラスは何をしたと思う?あのね、「ボクらは子グマ探偵団」っていう劇をしたの。ものすごく悪がしこくて有名な「怪熊ゼット」っていうドロボウがいて、みんなのおうちから宝物やお金をたくさん盗んでいるんだ。そのドロボウを「名探偵・熊本小五郎」が追跡するんだけど、そこで「子グマ探偵団」が大活躍するっていうわけ。
最初にウィルソン先生が「今年は劇をやろう」って言ったとき、みんなからはいろんな意見が出たんだ。たとえば、ツキノワ君の案は「環境問題」をテーマにした劇。先生は乗り気みたいだったけど、ほかのみんなはしーん。ホッキョク君のアイデアは「アクションシーンたっぷりの刑事もの」だった。男の子たちは喜んだけど、女の子たちにはウケなかったな。
言い争いになりかけたとき、「ボクらは子グマ探偵団!これで行こうよ!怪熊ゼットをつかまえるのよ」とエリーちゃんが大きな声で言ったんだ。とたんにみんな大コーフンで、すんごく盛り上がっちゃった。
ホッキョクくんが「それいいじゃん!怪熊をつかまえるのは空手アクションシーンで決まりだ」と言えば、「いいかもしれませんね。頭脳派の名探偵が活躍する場面は、ボクが協力します」ってツキノワくんもワクワクしてるみたいだった。カーチャちゃんまで手をあげて「子グマ探偵団のリーダーは女の子という設定はどう?」なんて言うもんだから、女の子たちも「カーチャちゃんはお金持ちの令嬢の役じゃなくっちゃ」とか「あたし、刑事の役だってやれるわよ!」とかさわぎ出して、みんなすっかりその気になってきた。 |
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みんなのさわぎを見て、ウィルソン先生も ニコニコしてた。先生がお話のあらすじを考えるって言ったんだけど、みんなが「ぜひボクたちにやらせてください」ってお願いしたから、先生はびっくりしてたよ。けっきょく、できるだけ自分たちで考えて、まとまらないところは先生が助けてくれることになったんだ。
その日からさっそく、ボクたちは劇の準備をはじめたよ。まずはあらすじを考えないと、どんな役があるのか決められないし、それに合わせて「台本」っていうのを作らないと、劇にはならないんだ。劇ってみんなのセリフでお話が進んでいくんだもんね。どんなことになってるか、本に出てくるみたいな文で説明するのは、できるだけ少しにしなくちゃいけないみたい。
台本作りでは、ツキノワくんが大活躍。みんなで決めたあらすじに合うようにセリフを作っていくんだけど、それがすごく早くて、おまけにおもしろいの!みんなが「ツキノワくん、すごい!どうしてそんなにスラスラ言葉が出てくるの?」っておどろくと、ツキノワくんはちょっとはずかしそうに「ぼくは本が好きですから。冒険ものとかもたくさん読んでいるし、自分でお話を作るのはおもしろいですよね」ってつぶやいた。
みんな感心してだまってうなずいてるし、ツキノワくんは耳のあたりがまっかになって、下を向いたまませっせと字を書いてた。だから、みんなの気持ちを代表してツキノワくんに伝えなきゃって、ボク思ったの。
「さすがツキノワくんだね!みんな『けんそんのまなざし』だよ」
あれれ~?なんだかみんな、よけいにしーんとなっちゃったよ?
「もうハシノスケくんったらまた!!それを言うなら『尊敬のまなざし』だってば!」ボクの背中でバシッと音がして、エリーちゃんが登場した。あっちゃー!またやっちゃったあ?
「まあいいじゃない、今日のはいつもよりは意味が近いわよ」って、カーチャちゃんが静かな声で言ってくれた。あ、そ、そうなの?とにかく助かった。って思ったのに、ツキノワくんが急に顔をあげて、「でもそのふたつの意味のちがいを知っていないと。ハシノスケくん、わかってますか?」なーんて言い出したもんだから、みんなまた大笑いになっちゃった。ツキノワくんったら、ほんとにまじめなんだからあ。
みんながいろんな役を提案するし、できるだけいい役になりたがって勝手な意見を言ったりするから、台本作りはとってもたいへんだったんだけど、ツキノワくんのがんばりで3日くらいでなんとかできあがった。
次は「配役」ていって、いよいよそれぞれの役を決めるんだよ。ボクはできたら名探偵か、子グマ探偵団のメンバーになりたいと思ってたの。台本を作ってるあいだ、何の役になりたいか考えてワクワクしてたんだけど、パパやママにも劇のことはまだ話してないんだ。役が決まったら言おうと思って。楽しみだなあ。
ツキノワくんが教室の前に出て、黒板に劇に登場する役を書いていくと、みんなしーんとして黒板の字を見つめたよ。それからツキノワくんが、ひとつひとつの役についてやりたい人、すいせんしたい人を聞いていったの。ボクはサイコーにドキドキしてきて、てのひらに汗をかいちゃったくらい。 |
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まず、名探偵。ボクは「やりたい」って手をあげたけど、なんとクラスの半分の子が手をあげてたの。よーし、ジャンケンなら自信あるぞって思ったところで、「やっぱ、名探偵はツキノワくんだろ。くやしいけどさ」ってホッキョクくんが言い出した。「そんな、いいですよ。希望者が多いんだからジャンケンにしましょう」ツキノワくんは赤くなって手をふったけど、「そうね、イメージぴったりだし。劇がリアルになるわ」「台本だって書いてくれたもんな」「いいんじゃない、ツキノワくん」って賛成の声がたくさん出て、この役はツキノワくんになった。
「ボクもやりたいなあ」って思わず言ったら、「ハシノスケくんなら、名探偵っていうよりグルメ探偵って感じ。どう見ても怪熊に逃げられそうだから、ダメね」って…。みんなも笑って賛成してる。ひどいや、そんなの!だけど「グルメ探偵」ってひびき、ちょっといいかも?
「子グマ探偵団」のリーダーとメンバーを決めるときは、ほとんど全員がジャンケンに参加したから、とっても時間がかかったよ。ボク?残念ながら負けちゃった。探偵団のリーダーになったのは、なんとカーチャちゃん。ホッキョクくんはメンバーのひとりになった。「空手のアクションシーンはまかせろ。怪熊ゼットとおれの対決シーンを入れろよ」ってはりきってた。
まだ役はたくさんあったから、希望者がいるものからジャンケンして、残りはすいせんっていうことになった。怪熊ゼットは目立つ役だけど、パパやママが見にくるせいか、みんなちょっとためらって、手をあげる子はいなかった。ボクは黒板に書いてある役を見ながら、次は刑事さんか、ゼットにねらわれる会社の社長の役にでも手をあげようかなあと考えてたんだけど、拍手の音とホッキョクくんの大声でハッとした。
「ハシノスケ、いいじゃん。けっこう目立つぜ。おれとおまえなら、空手のアクションもばっちりだしな」「え、なに?もう刑事のばん?」「なに言ってんだ、しっかりしろ怪熊ゼット!すぐつかまっちゃうぞ!」
ええーっ!!それってもしかして、ボクが怪熊ゼットの役ってこと?そんなあ~
「だ、だ、だ、だめだよ、ボク。ボクは気が弱いし、からだも弱いし、やせすぎだからホッキョクくんとなんて戦えないしぃ。怪熊ゼットなんかにあわないよう。ボクなんかより、エリーちゃんのほうがずっとにあうじゃん」「失礼ね、あたしは社長令嬢になるのよ。だいたいハシノスケくん、からだは丈夫だし、やせてなんかいないわよ。気は弱いかもしれないけど」
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「ハシノスケ、心配すんな。空手の組み手の練習だと思えばいいだろ。ほんとにケリを入れたりしないよ。カッコいい笑い方とか教えてやるからさ」
「そうね、怪熊はステキな黒いマントを着るといいわね。みんなで衣装を考えましょうよ」
「カーチャちゃんまでそんな…。でもマントはいいかもね。ボクいけるかも?」
ついついみんなに乗せられて、ボクはホントに「怪熊ゼット」をやることになっちゃったんだ! |
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ねえみんな、劇ってやったことある?劇って、すっごくおもしろいねえ!ボクは、ステージに立ってひとりで何かしゃべるなんて、ゼッタイいやだったんだけど、怪熊ゼットになってるときは、なぜか、ぜんぜんはずかしくないんだ。
あ、練習のはじめのころは、やっぱりはずかしかったんだけどね。名探偵役で「演出家」のツキノワくんから「ハシノスケくんは怪熊ゼットですよ。頭がよくて、強くて、すばしこくて、おまけに優雅なんです。そんな動きやしゃべり方じゃ、怪熊に見えないですよ!」って注意されてばかりだったんだ。でもカーチャちゃんが「ハシノスケくん、ステージの上に立ったら、いつもの自分を忘れるの。自分の役の気持ちになるといいわよ。怪熊ゼットはどんなクマか、何を考えてるか、どうやって生きてきたか想像してみるの。どんなときに喜びを感じるのかとか、どんなときくやしいのか、おこるのかとか。バレエを踊るときは、そうやって役を研究するのよ。そうすると、自分の役になりきれるわよ。ためしてみて」ってアドバイスしてくれたんだ。
まわりのみんなもだまって聞いてて、また「けんそんのまなざし」じゃなくて「尊敬のまなざし」でカーチャちゃんを見てたよ。もちろんボクもそうだったけど、すぐには怪熊の気持ちになりきることはむずかしくて…。
学習発表会まであと2週間くらいだったんだけどママのブリッジ教室のあとに、いつものブリッジなかまたちが怪熊ゼットの役の研究を手伝ってくれることになったんだ。
「へえ、ハシノスケ、怪熊ゼットか。いい役じゃないか。これは楽しみだな」「ママもうれしいわ。ハシノスケが活躍する劇を見に行けるなんてワクワクするわね」「お兄ちゃん、いいなあ!ワタシも見に行きたい」
うちで練習するんじゃ、もう劇の役を秘密にしてはおけないから、夕ごはんのあと思いきって話したら、みんなすごく喜んだからボクのほうがびっくりした。
「あ、ありがとう。パパとママ、がっかりしないの、ボクが怪熊の役で?」
「何言ってる、主役のひとりだぞ。怪熊は大事な役だよ。カッコよくやったら、最高だぞ。ハシノスケ、がんばれよ。パパがカッコいい演技を教えてやろう」「衣装も考えなくちゃね。やっぱり黒いマントかしらね」「うん、カーチャちゃんが、役になりきるには怪熊がどんな性格で、どんなふうに考えるか研究するといいっていうの。あとどんなふうに動くかとか、笑うかとか。もちろん衣装もだよ。でね、ママのブリッジ教室のあと、みんなが怪熊の研究を手伝ってくれるって。みんなも自分の役も練習したいんだ」「それはいいアイディアね、ママも話を聞かせてもらうわ。衣裳の参考になるしね」
「お兄ちゃん、ずいぶんイメージのちがう役だけど、みんなに教えてもらいながらやれば大丈夫よ。あとは自信をもつことね。怪熊になるときは、いつものお兄ちゃんとはべつのクマなんだって思えばいいのよ」ウィニーったら、カーチャちゃんみたいなこと言ってるよ。「けんそんのまなざし」じゃない、「尊敬のまなざし」しちゃいそうだぞお。
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次のママのブリッジ教室の日のティータイム。「わあ、おばさま、このシフォンケーキ、最高!紅茶の風味がなんとも言えないわ」「ブリッジ教室も楽しいけど、いつもおやつが楽しみなんだよなあ」「マンゴーのアイスクリームもママが作ったんだよ。みんながボクを手伝ってくれるお礼だって」
「みんな、ありがとう。今日から学習発表会まで、ブリッジの時間は少し短くして劇の練習をしましょうね。ハシノスケを助けてくださるのもうれしいけど、みんなも自分の役の練習をしたり、お互いにアドバイスしたりできるわね」「おれたち、みんなけっこう重要な役だから、この5人がいればだいたい劇ができるよな。ツキノワくんは演出家だから、細かいとこ変える相談もできるし、ハシノスケとは空手アクションも練習できるし」「まずは役の研究からにしてね。アクションはそのあとってことで…」
みんなが手伝ってくれたから、ボク、なんだか怪熊の気持ちがわかるようになってきた。笑い方とかもホッキョクくんが指導してくれたから、おなかの底から「ワハハハハハハ…」って声が出るようになったよ。
「そうだ!社長の家庭が出てくるシーンで、社長の家族がブリッジするのはどう?海外から帰ってきた息子になりすました怪熊ゼットも一緒にテーブルを囲んでブリッジするの。ソファに座ってお茶飲んでるなんて、ありふれててつまんないわよ」「わあ、それいい!エリーちゃん、ナイスアイディア」「うん、社長の家庭ですから、セレブっぽい雰囲気が出ていいかもしれませんね」「うわっ、ツキノワくん、ブリッジするからセレブだなんて、ひょっとしてボクたちも?」
みんなと笑ったりさわいだりしながら、ボクたちの練習はどんどん進んだ。ほんとになかまっていいなあ。それに、ボクってなかなかシブいかも?
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2週間が過ぎて、いよいよ本番の学習発表会の日が来たよ。ボクは前の晩からきんちょうしてなかなか眠れなかった。ステージでドシン!としりもちをついたところで目をさましたら、ベッドの下に落ちちゃってたよ。ふう、本番ではこんなことないといいんだけど。
「お兄ちゃん、朝ごはん食べないの?怪熊ゼットはそんなにビクビクしてないわよ」
「うん、でも今はまだ、ボクなんだもん。ああ、失敗したらどうしよう」「大丈夫、あんなにステキななかまがいるんだから。一緒にステージに上がればいい演技ができるわよ。さ、力をつけとくために、ひとくち食べていきなさい」ママにもはげまされて、ボクはトーストにかじりついた。
朝はあんなにきんちょうしてたボクだけど、いざ本番でステージに上がってみたら、なんだかすごく自信がわいてきて、ボクがハシノスケだってことを忘れちゃったみたい。声も低くてよくひびいてたって言われたし、ホッキョクくんと練習した空手アクションはすごく本物っぽかったって!
アクションではボクはとちゅうで姿をくらますんだけど、そのあと体育館の2階のろうかに登場して「また会おう、熊本くん。ワハハハハハ……」って、笑いながらマントをひるがえして走っていくんだ。これも、とってもうまくいったよ。
ブリッジなかまのみんなも、もちろんバッチリだったよ。ブリッジのシーンでは大人たちや先生たちがびっくり。ママに教えてほしいとか、どこで習えるのかとか、あとで問い合わせがたくさんきたんだよ。
こんな楽しい体験をしたおかげで、将来、名探偵になるのもいいなあって思ったってわけ。ブリッジするから、セレブ探偵かな?
あ、でも怪盗にはならないから安心してね! |
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なかまと協力すれば、できないと思ったことでもきっとできる! |
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だれかをすごいと思ったときは「尊敬のまなざし」。
「けんそんのまなざし」じゃない。 |
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ボクは俳優か名探偵にむいてるかも?! |
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