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7月。もうすぐ夏休みのある日、学校から帰ってきたら健君からメールが届いていた。
From: 早川 健 ken@kidsplaza.ne.jp
To: マック橋之介様 BJ@kogumanet.ne.jp
Sent: Tuesday, July 12, 2007 6:17 PM
Subject: ミニブリッジ大会
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橋之介君へ こんにちは。元気してる?今日、学校から帰ってきたらJCBLから夏のイベントのお知らせが届いていたんだけど、橋之介君はもう見たかな?
そこに8月にミニブリッジ大会があるって書いてあるんだけど、よかったら一緒に出てみない?
お返事待ってまーす! |
--- 健より --- |
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わお、大ニュースだ。ミニブリッジ大会だって!ママにきいたら、健君の言ったとおり、ボクにもちゃーんとJCBLからのお知らせが来ていた。夏休みにいろいろなイベントがあるみたい。ふーん、ミニブリッジ大会は2回もあるんだ。
「ママ、8月にミニブリッジ大会があるんだって。それで健君に一緒に出ようって誘われたんだ。行ってもいいでしょう?」ボクはすぐにママにきいてみた。
「まあ、ミニブリッジ大会ですって?そうねえ、せっかくだもの、いいわよ。その代わり勉強もちゃんとするのよ」 「はあい」やっぱり、勉強のことも言われちゃったよ。でも、ママのOKが出たので、さっそく健君に返事を出した。
From: 橋之介 BJ@kogumanet.ne.jp
To: 早川 健様 ken@kidsplaza.ne.jp
Sent: Tuesday, July 12, 2007 7:05 PM
Subject: ミニブリッジ大会
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健君へ メールどうもありがとう。
ミニブリッジ大会なんてすごいね。さっそくママにきいてみたら、出てもいいって!ママにブリッジを一緒に教わってる、ボクの仲間たちもさそってみるね。
いまからすっごく楽しみだよ。
じゃあまたねー! |
--- 橋之介より --- |
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次の日、学校でみんなにミニブリッジ大会のことをきいてみた。みんな出たいって賛成してくれたけど、エリーちゃんだけはダメなんだって。
「今度の夏休みはパパのふるさとのアラスカに行くの。残念だわ。私も出たかった」と言って、エリーちゃんはしょんぼりしちゃった。だから、「がっかりしないで。きっとまた大会があるから、次は一緒に出ようね」って、みんなでエリーちゃんを励ましたんだ。 |
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8月26日、日曜日。今日はいよいよミニブリッジ大会の日だ。会場の横浜ブリッジセンターはボクは何度も行ってるけど、みんなは初めてで、ボクのママが一緒に行ってくれた。ミニブリッジ大会は、子どもと一緒にペアを組むと大人も参加できるから、ママはホッキョク君と組むことになってるんだ。
行く途中の電車の中でママは、大会ではおうちでブリッジするときみたいに大きな声でおしゃべりしたり、うまくいったときに「やったー!」なんて叫んだり しちゃいけないって教えてくれた。みんなが同じハンドをプレイするから、大声を出すと、まだやってない人にどんなハンドかわかっちゃうことがあるからなんだって。それに、自分がうまくいったからって大喜びするのは、相手の人に失礼だからなんだ。
「他の人のカードをのぞいたりしてはいけないことと同じなのよ。スポーツと一緒で、ブリッジでもフェアプレイの精神が大切にされているの」とママが言う と、ホッキョク君がすかさず「へぇー、スポーツと一緒なのか。俺にぴったりだな」と満足そうにうなずいた。 そっかー。でも、ボクはうれしくなるとつい、「わーい!」って叫んじゃうから、これは気をつけないといけないぞ。 |
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みんなはブリッジセンターに来るのは初めてだから、たくさんブリッジテーブルが並んでいるのを見てびっくりしてるみたい。ブリッジする人って、とてもたくさんいるんだね。
「橋之介君、こっち、こっち」奥の方のテーブルに座った健君が手を振ってる。
「やあ、こんにちは。今日はよろしくね!」健君にあいさつして、ボクも席についた。受付は健君がしてくれたんだって。
「ボクたちは2番ペアで、最初はここに座るんだって。NS側だから、ずーっとここに座っていればいいそうだよ」健君が説明してくれたけど、ボクにはちんぷんかんぷんだ。「よく知ってるねー」と感心してたら、「ボクもよくわかってないよ。受付の人にそう言われただけだから。でも、ちゃんと試合の進め方をその都度教えてくれ るんだって」って健君が言ったのですこし安心した。
ママ=ホッキョク君、カーチャちゃん=ツキノワ君のペアも受付をすませて席についていた。ボクは小声で健君に「楽しみだけど、大会なんて初めてだから、ちょっとドキドキだよ。失敗したらごめんね」と打ちあけた。でも、健君が笑って「ボクだってそうさ。気にしない、気にしない。楽しくやろーね!」と言ってくれたので、だんだん気分が落ち着いてきたよ。そうだね、楽しく、だよね。 |
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開始時間になって、いよいよ大会がはじまった。まわりをぐるりと見まわすと、参加している人たちは全部で8テーブルになるみたいだ。ママとホッキョク君みたいに、大人と子どもでペアを組んでる人たちも何人かいる。ボクら は小学生だけど、中学生や高校生に見える人たちもいるなぁ。ボクたちの最初の相手のおねえさんたちも中学生みたい。うーん、またちょっとドキドキしてきちゃった。
ボードが2つずつ配られ、ボクらはさっそく最初のボードから自分のカードを取り出した。 |
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えーっと、ぜんぶで13点だね。ボクはテーブルの上に置いてある点数を書く紙の自分のところに『13』と大きく書いた。おうちでミニブリッジするときは点数を口で発表するけど、ここではみんなが紙に書くことになってるんだ。 健君が14点、相手の人たちが5点と8点だったので、健君がディクレアラーになった。 |
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いちばん最初のボードでぐうぜんダミーになれたので、ボクはなんだかほっとした。気がつかなかったけど、やっぱりとってもキンチョーしてたみたい。だって、他の人たちはみーんな上手で落ち着いてるように見えるんだもん。健君もそう。でも、健君はもともと頭がいいからなぁ・・・。
そんなことを考えているうちに、健君のプレイが終わった。切り札でゲーム宣言をしたんだけど、3トリック負けただけで無事ゲームをメイクした。健君ってやっぱすごいや。
次のボードでは、ボクの右側に座っている中学生のおねえさんがディクレアラーになった。ボクの打ち出しだ。よくダミーを見て考えなくちゃね。さっきダミーだったときにはちょっぴりうわの空だったから、集中、集中・・・。 |
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ボクは、絵札が続いているをリードしようか、シングルトンのを出すか迷った。でも、こないだパパに「ダメもと」で出してみるのも悪くないって教わったから、9をリードすることにしたんだ。
ディクレアラーのおねえさんは、リードを自分のほうで勝って、すぐに7を出してきた。これは切り札狩りって言うんだったね。やっぱり、このおねえさんはきっと上手なんだろうなぁ。
ボクはすぐにAを取った。だって、いまAを出して勝たないと、たとえが切れるとしても、2で切れなくなっちゃうもんね。健君がのAを持ってるかどうかはわからないけど、はダミーにAがあって望みがないから、ボクは「ダメもと」でを出した。 |
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健君がAで勝ったとき、ボクは心の中で「わお!」って叫んじゃった。大声を出さないっていうママの言葉を忘れてなくてよかったよ。でも、健君はを出してくれるかなぁ。
健君がちょっと考えて3を出してくれたときには、ボクはうれしくて飛び上がりそうになっちゃった。健君も「ダメもと」でを出してくれたんだね。
結局、この回はボクたちがラフを入れても3トリックしか取れなかったから、中学生のおねえさんのゲーム宣言は成功した。でも、がラフできたからボクは大満足だった。
「を出したのは上手だったわね」おねえさんがにこにこしながらほめてくれた。「ありがとうございます」健君ははにかみながら答えた。ボクもうれしくなっちゃった。 |
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どのテーブルでも2ボードが終わったころ、係の人から「それでは、 いまEWに座っている人は、ひとつ数の大きいテーブルのEWの席に移動してください」というアナウンスがあった。なーるほど、NSのペアは同じ場所に座ったままで、EWのペアが順番に隣のテーブルに移動していくんだ。こうやって、いろいろな人と当たっていくんだね。
「次もがんばってね」おねえさんたちが隣のテーブルに移っていった。やさしいおねえさんたちだったなぁ。すこし前までキンチョーしまくりだったけど、だんだん慣れてきたみたい。おねえさんたちと健君のおかげだね。よーし、この調子でがんばろうっと。 |
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その後もいろいろな人と対戦したけどみんないい人たちで、とっても楽しかった。その中にウィニーとあまり変わらないくらい小さい男の子がいたんでびっくりして学年をきいてみたら、ちっちゃいけど2年生なんだって。2年生なのにちゃんとミニブリッジができて、えらいよね。一緒にペアを組んでいたお母さんに教えてもらったんだって。そのお母さんには、会場でいろいろ説明してくれる係の人はディレクターって言って、スポーツの審判みたいな人なんだってことも教わっちゃった。
あっというまに時間が過ぎて、とうとうぜんぶのボードが終わった。大会だからみんなのスコアを計算して順位をつけるんだけど、結果がでるまでの間、ボクたちはジュニアくらぶのスタンプを押してもらったり、みんなでどうだったなんておしゃべりしていた。 |
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「それでは結果を発表します」アナウンスが聞こえると、会場はしーんと静まりかえった。「優勝は、月之輪秀太郎君、エカテリーナ・ミハイロワさんです!」
「わぁ!」ボクらの仲間から歓声があがった。「すごい、すごい!カーチャちゃん、ツキノワ君、おめでとう!!」ボクたちは手を取りあって喜んだ。
ツキノワ君とカーチャちゃんはディレクターに呼ばれて、賞品をもらって記念撮影をした。それにしても、優勝なんてすごいなぁ。でも、ボクと健君は何番だったのかな。
後から、どのペアもみんな、自分たちの結果が書いてある紙をもらえたので見てみると、ボクたちは16ペア中14番、ママとホッキョク君は4番だった。やっぱりボクたちがみんなのなかでビリになっちゃったよ。
「きっと、ボクが健君の足をひっぱっちゃったんだ。ごめんねー」ボクはしょんぼりして健君にあやまった。「そんなことないよ、ボクだって失敗したと思うし。それに、順位なんて気にしなくていいんじゃない。何しろ初めてなんだし、楽しかったってことがいちばんだよ。さあ、元気出して、笑って、笑って!」健君がそう言ってくれたので、ボクも元気が出てきた。「そうだね。『笑う門(もん)には福来たる』っていうもんね!」ボクが笑いながら言うと、すかさずママに「それを言うなら『笑うかど..には』でしょう。 まったく!」って叱られちゃった。またやっちゃたよ。しかも、健君の前で・・・。みんなに大爆笑されて、ボクは耳までまっかになっちゃった。
でも今日は1日、ほんとに楽しかったなぁ。健君の言ったとおり、順位なんて気にしなくていいよね。でも、もっと上手になれるように、これからもがんばるぞう。 |
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大会のときには、プレイ中に大声を出してはいけない。 |
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順位なんて気にしない! |
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笑うかどには福来たる。 |
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